「第11回世界武術選手権大会(トルコ・アンカラ)」日本は金1,銀2,銅3

トルコ・アンカラ 83カ国・地域から約700人が参加

日本は金1,銀2,銅3 参加国中6位の活躍

【掲載:2011年11月15日】

日本代表選手団。選手11人と役員,コーチら

国際武術連盟(IWUF)が主催し,トルコ武術連盟が主管する「第11回世界武術選手権大会」が,10月914日にトルコの首都アンカラ市で開催された。

今大会には,83カ国・地域から約700人の選手,役員等が参加した。10月9日夜には大会会場の「アンカラスポーツホール」で開会式が盛大に行われ,式典に続いてトルコの民族舞踊など多彩なアトラクションが披露された。

大会は,套路競技11種目(太極拳,太極剣,南拳,南刀,南棍,長拳,剣術,刀術,槍術,棍術,対練)の男女計22種目と,散打競技18種目(男子11階級,女子7階級)で実施した。日本は套路競技に男子6人,女子4人が出場した。また,散打競技では男子48kg級に1人が参加した。

套路競技には,谷川大監督,前東篤子コーチ,孔祥東コーチ,丹井均コーチが率いる男女計10名の代表選手が下記の種目に出場した。

散打競技は,田村卓也コーチ,上村利一コーチの下で,男子48kg級に上村昂輝(武術散手倶楽部・大阪)が出場した。

男子太極拳・太極剣: 関屋賢大(大阪府連盟)
吉田慎之佑(岩手県連盟)
女子太極拳・太極剣: 宮岡愛(神奈川県連盟)
佐藤直子(神奈川県連盟)
男子南拳・南刀・南棍: 中田光紀(東京都連盟)
女子南拳・南刀・南棍: 小島恵梨香(滋賀県連盟)
男子長拳・刀術・棍術: 市来崎大祐(大阪府連盟)
下村有輝(大阪府連盟)
下起悦郎(愛知県連盟)
女子長拳・剣術・槍術: 山口啓子(東京都連盟)

●ベテラン勢が活躍,参加国中6位の活躍:

套路競技は,10月10~14日に,午前(8:30開始),午後(15:30開始)または夜間(19:30開始)の日程で,第1,第2コートで同時に行われた。散打競技は,同期間の午前,午後,夜間に実施された。多くの時間帯で套路競技と散打競技が同時並行して実施される過密日程であった。


にぎやかな開会式の模様。10月9日夜

大会は散打のコート1面と套路コート2面で行われた

 

1日目午前の第2コート最初の種目,女子南棍で小島選手が金メダルを獲得して,会場に早々と「君が代」が流れた。続く男子南棍の中田選手,女子太極拳の宮岡選手,男子棍術の市来崎選手がいずれも3位銅メダルを獲得。日本チームは,第1日目にして金1,銅3を挙げて勢いを示し,各国チームから注目を浴びることになった。

3日目には,男子太極拳で関屋選手が2位,女子太極剣で宮岡選手が同じく2位で,銀メダル2個を獲得した。

今回の代表選手10人のうち,シニア代表初出場の吉田選手(太極拳)を除く9人は,すべて代表歴5年以上のベテランあるいは2009年第10回大会(カナダ・トロント)でメダル獲得の実績がある選手であった。

今回の金1,銀2,銅3はこれらのベテラン代表選手が実力を発揮して獲得したものであった。

●上位国・地域の実力が伯仲新興国がレベルアップ:

中国,香港,マカオの強豪国・地域に加えて,次回の2013年第12回世界選手権を主管することになったマレーシアが,地力を示した。同国は代表選手メンバーを毎年6カ月以上,中国に滞在させて特訓を行っている。男女の太極拳等で日本のライバル国である。また,ベトナム,韓国も有力な選手を揃えており,今大会はこれらの国の力が伯仲して,激しい競い合いとなった。

このなかで,全員がアマチュア選手である日本代表選手が,長年たゆまぬ努力を重ね,これらの上位国に伍して実力を発揮していることを讃えたい。

 


大会会場のアンカラスポーツホール

女子南棍の表彰式。
小島恵梨香選手が金メダル獲得

 

種目別メダル成績(套路競技)

順位     日本選手成績
1
長拳 中国 マカオ アメリカ
市来崎4位,下村11位,
下起15位
2 剣術 マカオ アメリカ インドネシア
下起5位
3 刀術 中国 マカオ 韓国
市来崎6位,下村20位
4 槍術 中国 アメリカ 香港
下起6位
5 棍術 マカオ ベトナム  日本 
マレーシア
市来崎3位,下村28位
6 太極拳 ベトナム  日本  韓国
関屋2位,吉田15位
7 太極剣 中国 マレーシア フィリピン
関屋4位,吉田14位
8 南拳 中国 香港 韓国
中田21位
9 南刀 韓国 香港 韓国
中田4位
10 南棍 香港 イラン  日本 
中田3位
11 対練 香港 イラン ベトナム
1
長拳 中国 香港 香港
山口10位
2 剣術 中国 香港 ベトナム
山口8位
3 刀術 中国 香港 ロシア
4 槍術 トルコ 香港 ベトナム
山口10位
5 棍術 香港 ロシア ベトナム
マレーシア
6 太極拳 中国 インドネシア  日本 
マレーシア
宮岡3位,佐藤6位
7 太極剣 マレーシア  日本  インドネシア
宮岡2位,佐藤4位
8 南拳 中国 マレーシア マレーシア
小島6位
9 南刀 インドネシア 韓国 香港
小島6位
10 南棍  日本  ロシア マレーシア
マカオ
小島1位
11 対練 シンガポール ベトナム イラン  



太極剣2位太極拳3位の
宮岡選手

南棍3位の
中田選手

太極拳2位の
関屋選手

棍術3位の
市来崎選手


昨年のアジア競技大会(中国・広州)まで,幾多の国際大会で2位銀メダルを獲得してきた宮岡,市来崎選手は,今大会に金メダル獲得を期して万全の態勢で臨んだ。残念ながら結果は及ばなかったが,立派な内容の演技で,日本のベテラン選手が依然として進化し,レベルアップを果たしていることをライバル国に示した。彼らが日本のトップアスリートとしての自覚と誇りを堅持して精進を重ね,いまだにレベルアップを重ねていることに称賛を送りたい。今後も奮起して,目的を達成することを願う。

また,今回は,4種目で4位があり,これらの種目でメダルを逃している(市来崎,関屋,中田,佐藤)。佐藤は長年の怪我を克服して,競争の激しい女子太極拳でここまで上がってきた。十分に称賛に値する。

他の3人は,それぞれが1種目で銀または銅を獲得しているだけに,4位に甘んじた内容を分析しなければならない。

新人の吉田選手は,シニア世界大会初出場にも臆せず,難度動作を決めて健闘した。今後の成長に期待したい。

また,今回はメダルに届かなかった下起,下村,山口選手にも今後の活躍を期待したい。

外国勢では,ロシア,イランは今回はメダルの数こそ伸びなかったが,相変わらず強固な選手強化体制を見せつける強い選手を揃えていた。

また,インド等の南アジアやアフリカ,ヨーロッパの各国が着実にレベルを上げてきていることは心強い。

日本チームは,長所を発揮してメダルを獲得した同じ選手が,別な種目では大小のミスでメダル圏外となったことに象徴されるように,長所と弱点が見受けられた。各種目で各国のレベルが接近し,競争の激化が進むなかで,弱点を克服し,長所を生かすための今後の強化活動が求められる。

なお,散打競技では男子48kg級に出場した上村選手は初戦で敗退した。

 

 
国名
1
中国
10 0 0
2
中国香港
3 6 3
3
中国マカオ
2 2 1
4
マレーシア
1 2 5
5
ベトナム
1 2 4
6
日本
1 2 3
7
韓国
1 1 4
8
インドネシア
1 1 2
9
シンガポール
1 0 0
10
トルコ
1 0 0
11
イラン
0 2 1
12
ロシア
0 2 1
13
アメリカ
0 2 1
14
フィリピン
0 0 1
 
合 計
22 22 26

 

●競技役員,国際連盟役員などを派遣:

本大会には,石原泰彦日本連盟理事が大会副総審判長を務め,及川佳織剛際審判員が日本チーム帯同審判員として審判業務を担当した。

大会期間中に開催された国際武術連盟の諸会議には,村岡久平日本連盟副会長・国際連盟理事,岡﨑温日本連盟常務理事・国際連盟市場開発委員会委員,石原泰彦日本連盟理事・国際連盟技術委員会委員が出席した。

(記:石原泰彦日本連盟理事・事務局長)

 

「第11回世界武術選手権大会」報告

谷川 大・日本代表選手団監督
(日本連盟選手強化委員会委員長)

2年ごとに開催され,今回で第11回となった世界武術選手権大会は,10月9日から14日までの間,トルコ共和国の首都アンカラ市で開催された。日本代表選手団は選手11人と5人のコーチ,監督1人を加えた17人で構成された。

また,石原泰彦日本連盟理事・事務局長は副総審判長を担当し,及川佳織国際審判員が審判業務に当たったほか,村岡久平副会長兼専務理事と岡﨑温常務理事も同時期に開催される国際連盟会議の参加を兼ねてそれぞれトルコ入りした。

套路チームは10月4日に集合,本部研修センターで2日間の事前合宿を経て7日に日本を出発し,同日トルコ入りした。散打チームは乗り継ぎ便の関係で8日深夜にトルコ入りし,さらに選手は翌朝に計量という厳しい状況となった。

開催国のトルコはこの大会に向けて準備を進めてきたようだが,参加の国数と選手の多さから運営には大変苦労していたようである。

日本選手は実力を発揮し,金1,銀2,銅3を獲得した。この結果は喜ばしいものであるが,失敗があれば大きく順位を下げるという現在の競技ルールの中で,複数種目に出場する選手にはどの種目にも安定した力が求められた。再現性を高め,練習,試合を通して失敗のないようにするためには技術面ばかりでなく,メンタル面の調整も必要となる。2~3種目の総合成績で順位を競う大会のことを視野に入れて,今後一層努力していかなければならない。

また,世界各国のレベルは着実に上がってきており,日本が早期に競技ルールの研究と訓練,基礎技術の強化に取り組んで成果を上げてきたように,各国も計画的な研究と訓練を重ねて力をつけている。日本チームは現状で満足するのではなく,単に失敗しないだけでなく,現在もっている基礎技術を生かし,演技レベルの部分でもより高い評価を得られるための努力を重ねなければならない。

今回も,日本から10数時間という移動時間にもかかわらず,選手の家族の皆さんが応援のためにトルコ入りしてくださり,連日熱心な声援を送ってくださった。選抜された選手の活躍は,応援の皆さんに支えられていることに改めて感謝申し上げたい。


今大会のロゴマーク。会場から