「第16回世界武術選手権大会(アメリカ・テキサス州・フォートワース)」結果報告

4年ぶりの世界選手権で荒谷選手が銅メダル2個、12種目でW杯出場権を獲得!

国際武術連盟(IWUF)主催による「第16回世界武術選手権大会」が11月13日~21日(競技は17~20日)にアメリカ・テキサス州・フォートワースのフォートワースコンベンションセンターで開催されました。

前日のオープニングセレモニーでは高佳敏氏らをはじめとする中国武術家が特別演武を披露したり、カウボーイの投げ縄などのアトラクションが行われ、大会を盛り上げました。

大会には、80カ国近くの国と地域から約800人の選手がエントリーし、4年ぶりとなる世界選手権で最高峰の戦いをみせました。

日本代表選手団(TEAM JAPAN)は、男女計8人の選手と監督・コーチ4人、審判員1人、オブザーバー4人が参加し、荒谷友碩選手が太極拳と太極剣の2種目で銅メダルを獲得しました。

今大会もIWUFのYouTube公式チャンネル(https://www.youtube.com/user/iwufwushu/)でライブ放送が行われました。映像はアーカイブで、いつでも視聴できますので、ぜひご覧ください。

本事業は、(公財)日本オリンピック委員会(JOC)の選手強化NF事業助成を受けて実施されました。

また、クラウドファンディングでは、334人の方から、4,750,000円のご支援をいただきました。皆さまの応援が選手団にとって大きな力になりました。あたたかいご協力に、心から御礼申し上げます。

本年10月横浜で開催される「第3回武術太極拳ワールドカップ大会」への出場権を獲得

今大会は、2024年10月26・27日(土・日)に日本・横浜で開催する「第3回武術太極拳ワールドカップ」への出場権をかけた大会でもありました。日本は12種目で入賞を果たし、ワールドカップの出場権を獲得しました。代表選手たちにはワールドカップでの大きな飛躍を期待します。

国際武術連盟諸会議に出席

大会期間中に国際武術連盟(IWUF)の各種会議が開かれ、IWUF総会に近藤重和常務理事・事業委員会委員長が参席しました。その他、日本で開催されるワールドカップのプレゼンも近藤常務理事によって行われ、日本・横浜での開催が正式に決定しました。

第16回世界武術選手権大会 日本代表選手

第16回世界武術選手権大会 日本代表選手

開幕式では高佳敏氏ら中国武術家が特別演武を披露

開幕式では高佳敏氏ら中国武術家が特別演武を披露

世界からトップ選手が集まり盛大に開催

世界からトップ選手が集まり盛大に開催

IWUF総会に参席した近藤重和常務理事

IWUF総会に参席した近藤重和常務理事

 

参加選手の感想(一部抜粋)

安良城基睦選手「大会に向けて、アジア大会に続き、筋力トレーニングを強化しましたが、引き続き継続していきたいです。ミスなしで終わるのが前提なので、もっとメンタルの方も鍛えていけたらなと思います。」

池内理紗選手「この度は世界選手権出場という貴重な機会をいただきありがとうございました。やりきれたという点については自分自身は満足しています。今回の反省を踏まえて、メンタルトレーニング、トレーナーによるトレーニング講習、1単元ごとのゴール設定を今後導入できたら良いのではと感じました。」

貴田菜ノ花選手「アメリカはご飯も時差も大変でしたが、チームみんなが仲が良く、毎日笑って、たくさんコミュニケーションを取りました。アジア大会の時よりも大会に挑む時の気持ちが安定していたように感じます。メダル獲得こそ叶いませんでしたが、2024年に向けて成長できる課題を得られていることが、今回の世界大会出場にあたっての最大の収穫です。」

髙木勇吹選手「今大会では自身のフィジカル不足を痛感しました。自分がやりたい難度、技術に対して体が足りていないから怪我をしてしまいます。武術のうまさだけではない、フィジカルからくる純粋な膂力の違いを見せつけられましたが、向上の余地は大いにあると感じました。」

松川爽人選手「大会に向けて強化してきたことは、難度の成功率を上げることと、南拳特有のパワーを身につけることでした。大会の結果には満足していません。海外の選手に負けないフィジカルを手に入れるために自分でメニューを組んで実践していきます。」

村上僚選手「今後の強化目標は、メンタル面でまだ完全とはいえないので自宅で自律訓練法など直前合宿中に学んだことを継続して行うようにすることが一つです。技術においては表現力向上を中心とした強化練習が必要になります。2024年のワールドカップのために以上のことを念頭に置いてまた日々の訓練に励んでいきます。」

齋藤志保選手「アジア大会からの2カ月間、「ミスをしないこと」「太極拳動作を熟練させること」「表現力の強化」を意識して練習しました。大会では今できることはほぼ最大限発揮できましたが、2024年メダルを獲得するために難度と套路構成を見直し、よりレベルの高い演技を目指します。」

荒谷友碩選手「アジア大会では総合5位という結果に終わったので、世界選手権では2種目ともメダルを獲得できよかったです。海外勢は全体的にレベルが上がり、ほとんどの選手が高難度動作を行っていました。太極拳選手に関しては、日本の選手に比べて表現力があるように感じています。2024年の大会に向けて、摆莲540°の完成と太極拳の技術・表現力の向上を目指したいです。」

監督・コーチレポート

目的

2019年に上海で開催されて以来4年ぶりに実施される世界大会。2024年10月に日本で開催されるワールドカップ出場権を得るための予選大会でもあった。ワールドカップの開催国として非常に重要な大会と位置付け、出場権が与えられる全種目8位入賞以内の成績を目指した。また2026年に愛知県で開催されるアジア競技大会も視野に入れ、ベテランの起用と若手選手の育成を意図した布陣で臨んだ。武術套路個人競技の男女合わせて全20種目中、女子南拳3種目を除いた17種目での出場権を得るべく8人の人数枠にフルエントリーし、ベテラン選手4人は4年ぶりとなる海外派遣訓練を行って大会に備えた。

11月11日(土)~13日(月)の3日間、東京・日本連盟トレーニングセンターにおいて直前合宿を実施し、最終調整を行った。短い日程ではあったが、実際の出場時間を想定した全套練習を1単元ごとに行い、大会同様の緊張感を持ってリハーサルを実施した。2019年ルールに基づいた減点箇所の確認や、跳躍の完成度を上げるための対策を行いながら、疲労感や痛みのある選手はケアに通って、各自でコンディショニングを積極的に行った。

アメリカ・ダラスまで13時間の長いフライトを見越し、健康面、生活面にも考え得る限りの注意を払った。現地到着後から競技開始まで体調調整の日程が2日間しかないため、特に体内時計の乱れ対策が必要と想定して、睡眠時間の調整も行って渡航に備えた。

成果

今大会の日本チームは2個の銅メダル獲得という結果を得た。重要な目的としていた、日本で開催されるワールドカップの出場権が与えられる8位までの入賞については、日本チーム8人中7人が、目標の17種目中12種目での出場権を獲得した。期待には届かなかったが、3人の太極拳のベテラン選手が、出場した種目全てにおいて減点のない演技で実力を発揮することができ、大きな評価に値する快挙であった。また19歳の若い2人の長拳選手が、計3種目において最高難度を成功させて結果を出し、日本チームで新しい世代が育っていることを世界に示す良い機会となった。

コロナ禍のため4年ぶりとなった大会では、ベテランの残留を含みながら世代交代している世界の状況を見ることができた。アジアの多くの国はプロとして活動するチームである。彼らはコロナ禍の影響を受けずに通常の訓練を続け、豊富な練習量で若い世代との交代を実現させていた。日本チームでも若い選手が育っていることは確かであるが、ベテランの全種目ノーミスの演技に比べて若手のミスが目立った。約4年の間に国内訓練の制限を受けたり、海外派遣や大会出場の機会を失った影響があると言わざるを得ず、プロチームとの違いが明確な結果となった。それでも新しい日本チームは、ミスで自滅しなければ上位入賞の実力を持つところまで、進歩した現状であるとの確信を持った。

杭州アジア大会時にウェルフェアオフィサーとメンタルトレーニングについて話す機会を持った。培った実力をそのまま競技の場で発揮するために、自分を知り、考え方を変えることで自らをコントロールする、これをトレーニングとして行う必要性を痛感し、競技が終了した翌日から選手たちに働きかけて取り組みに着手し始めた。今大会で実力を発揮した選手の1人は以前より既にメンタルトレーニングを行っており、競技への考え方の幅が広がったことで、4年前の世界選手権で失敗したトラウマを払拭して出場できた。この結果は選手たちへの希望となり得る。これまで認識していなかった面での成長の可能性が見込まれ、選手たちの要望に応えてコミュニケーションを図りながら積極的に進めていきたい。

また成都ユニバーシティゲームズ、杭州アジア大会ではトレーナーの方々のお世話になった。特に杭州アジア大会では怪我を抱えていたり、競技前にギックリ腰になった選手もいたが連日のケアを受けて出場することができた。選手たちの状態やそれぞれが行うべきケアとトレーニングについてメディカルルームへ意見を伺いに出向き、そこで得た知識をもとに同様のケアを望めない今大会に向けて、でき得る限りのケアとコンディショニングを外部の力も借りて渡航前ぎりぎりまで行った。現地到着後は、ホテル付帯施設のジムをトレーニングに使用し、脂肪の多い慣れない食事を想定して持参したレトルト食品を摂って体調維持に努めた。日本よりも気温が低かったが部屋に湯船があり、温浴で体を温めることができてケアに役立った。

課題

今大会は好成績とは言えないがまずまずの成績であった。日本チーム8人中7人の選手がワールドカップの出場権を獲得したことにより、今後約1年間で向き合うべき課題と責任を選手たち自身も周囲も身に沁みて感じている。

メダルの獲得には身体能力、技術の向上と表現力、本番での成功率の3つが要素である。身体能力は難度跳躍の高さと回転度数のための重要な構成要素であり、長拳・南拳は720度、太極拳は540度が回れるだけのジャンプ力と着地を可能にする体軸感覚、歩型を支える筋力を身につけることが直近の課題である。

技術面に関しては、一つ一つの武術動作本来の意味を深く理解し、動きの表現をコントロールできるように熟練していく必要がある。今後、種目ごとの技術と特徴の表現がますます重要となっていく。各国はコロナ禍でも訓練を続け、4年前の状態から進歩した結果が出ている。日本は日常の訓練時間が少ない上にコロナ禍の影響を受けてしまったが、世界のレベルに近付くために持ち前の勤勉さで研究を続けること、先に進んでいる国々との交流で新しい情報を得る必要がある。

本番での成功率は、習熟度が基本となる。国際大会での減点が厳しくなっている現状では、ほんの小さな着地の揺れでもバランスミスとして減点される。確実に止まれたとしても規格が少し外れていると減点されて、小さなミスで順位を大きく落としメダルを逃してしまうという、まさに完璧が求められている。今大会では時差の影響で各国ともに万全の体調ではなかったが、その中でも確実に決めることができる国との差があった。日本チームは段々ミスが出てしまい、自滅を起こさないよう確実にできる状態を再現しなければメダルに届かない。成功率を上げるためには何度も繰り返しの練習が必要であり、普段の練習でミスが出るところを完璧に仕上げることが目標になる。ただ過度の練習はオーバーワークになってしまうため、同時に疲労を回復させるケアとコンディショニングを練習の一環として科学的な方法を学び、身につけていかなくてはならない。自分を知ることから始まるメンタルトレーニングによる精神の安定、緊張や集中について事前に考え、本番前の心の持ち方をコントロールできるようになるのも普段からのトレーニングが必要となる。

外国勢の難度レベル、成功率が上がっている現状を目の当たりにし、日本チームもベテランは確実に成長を続け、最高難度をこなす若手が育ってはいるが、3種目全てでの実力発揮には至っていない。ここからをスタートに2024年のワールドカップ大会に向けて、出場する選手のメダル獲得に向けた練習計画を急いでやりたい。出場する種目に優先的に対応しメダルに近付きたい。

最後に、大会の参加にあたり、今回初めてのクラウドファンディングでたくさんの方々からのご支援をいただいた。選手たちはご支援はもちろんのことながら、多くの皆様からの応援があることを実感し、非常に大きな支えになったことに感謝している。また連盟の皆様、関係の皆様に多大なご協力をいただき感謝を申し上げる。今後も切磋琢磨を続ける選手への応援を引き続きよろしくお願いいたします。

ミーティングを行う日本代表選手団(TEAM JAPAN)一行

ミーティングを行う日本代表選手団(TEAM JAPAN)一行

表彰台で笑顔をみせる荒谷友碩選手

表彰台で笑顔をみせる荒谷友碩選手

武術太極拳初のTEAM JAPANロゴ入りユニフォーム

武術太極拳初のTEAM JAPANロゴ入りユニフォーム

第16回世界武術選手権大会(アメリカ・テキサス州)日本代表選手団(TEAM JAPAN)名簿と成績

種目 性別 氏名 所属 出身 出場種目と成績
1 太極拳 荒谷 友碩 千葉県 千葉県 太極拳3位、太極剣3位
2 村上 僚 東京都 北海道 太極拳7位、太極剣6位
3 長拳 安良城 基睦 大阪府 大阪府 長拳5位、剣術7位、槍術13位
4 髙木 勇吹 愛知県 愛知県 長拳48位、刀術5位、棍術28位
5 南拳 松川 爽人 大阪府 石川県 南拳16位、南刀18位、南棍13位
6 太極拳 齋藤 志保 岩手県 岩手県 太極拳4位、太極剣6位
7 長拳 池内 理紗 埼玉県 埼玉県 長拳12位、刀術11位、棍術7位
8 貴田 菜ノ花 大阪府 兵庫県 長拳8位、剣術10位、槍術7位
9 監督 孫 建明 選手強化委員会ヘッドコーチ
10 コーチ 孔 祥東 同 委員長
11 前東 篤子 同 副委員長
12 丹井 均 同 強化コーチ
13 帯同審判員 王 輝 国際審判員
14 オブザーバー 近藤 重和 アジア武術連盟執行委員、常務理事
15 谷川 大 常務理事
16 及川 佳織 審判委員会委員長、理事
17 湯川 絹香 秘書、通訳