「2022年度冬季シニア強化合宿」を実施

12月30日~2023年1月4日 東京・日本連盟トレーニングセンター

来年度の国際大会を見据えてレベルアップを課題に強化合宿を実施

(公社)日本武術太極拳連盟は12月30日(金)から2023年1月4日(水)の6日間、東京・日本連盟トレーニングセンターで冬季強化合宿を実施しました。本事業は、(公財)日本オリンピック委員会(JOC)選手強化NF事業助成を受けて行われています。

今回の合宿は、来年度の国際大会に向けて技術面のレベルアップを重要課題としてシニア強化指定選手(推薦選手2名含む)・コーチ合わせて総勢37人が参加し、合宿最終日には、参加選手およびコーチを対象に、(公財)日本アンチ・ドーピング機構(JADA)発行のテキスト資料や過去の事例などを挙げ、アンチ・ドーピング/コンプライアンス講習も実施されました。

本合宿は競技力向上事業の一環として実施された

本合宿は競技力向上事業の一環として実施された

 

2022年度冬季合宿レポート

【目的】

「第19回アジア競技大会」「FISUワールドユニバーシティゲームズ」「世界武術選手権大会」など今年行われる国際大会に向けてのレベルアップ訓練を行った。今回の合宿では身体能力面より技術のレベルアップを重要課題とした。徒手および長短器械種目の訓練を毎日欠かさず行い、3月の選考会に向けて全種目の完成度を上げるための訓練を行った。

太極拳:太極拳としての跳躍難度の完成度を上げることを目指した。跳躍自体の質を上げることが前提となるが、特に着地を安定させ、ただ止まって形を作るだけではなく、太極拳の動作としての連接をしっかりと完成させることで演技のレベルアップを図った。

長拳:難度動作の成功率向上を目指した技術練習、武術動作の技術向上のための身体操作法にも取り組んだ。12月に開催されたジュニア世界大会日本代表も参加し、ベテラン選手との合同訓練でより高いレベルの難度動作や競技套路のリズム・表現力などを学ぶ機会として次世代の育成も兼ねた。

南拳:自選難度競技の経験がまだ少ない若い選手中心であった。南拳の特徴的な手法や歩法、ジャンプを正確に表現するため、基礎技術をしっかり身に付ける訓練に取り組んだ。技術を上げて表現力の向上を図るために、各自の自選套路の動作名称を確認し、南拳の独特な動作の意味を理解し演技することを中心に訓練を行った。

【成果】

太極拳:跳躍難度からの連接動作においても太極拳としての風格を表現するには、繋げる際の手法や眼法を意識することが重要である。動作をより理解するために「動作名称」の意味を意識することに取り組んだ。
例「腾空飞脚+提膝独立」。

また、太極拳の動作名称は動きや形を抽象的に比喩した名称が多く、同じ名称についても拳式によって動き方が違っていることが常である。例「楊式の野马分鬃」と「陳式の野马分鬃」。名称は大事であるが、どんな動作を行っているのか(動作の目的、方向、力点など)を把握することが重要と再認識し、「太極拳」としての基本や技術は疎かにせず、歩法における関節の緩みや勁力の伝え方、また太極剣の発勁時での下肢・剣・剣指の協調を丁寧に確認した。動作の全てを太極拳の演技と捉えて表現するように太極拳への理解を深めることができた。

長拳:毎回のウォーミングアップに変化をつけ、しっかり時間をかけて行ったことで怪我予防の効果があったと思う。武術特有の脱力や身体操作法を取り入れたことで、武術動作時でも脱力(放鬆)や全身の協調性がアップしたように見受けられた。通常訓練では手をつけにくい部分に着手でき、経験にない動きで戸惑いながらも新しい発見として今後の体づくりのために大いに役立ったと考える。

難度に関しては、今あるものの完成度と、今後回転数が増える時の跳び方を見据えた訓練を行った。跳び方や空中動作に加えて助走の段階から癖のある選手が多く、ゆっくり動作をチェックすることで身体のずれを確認し、ジャンプのタイミングが改善されて、以前より楽に跳べるようになる選手が多く見受けられた。

また、自身の套路の動作名称を書き起こし、武術の技の意味や方法を理解して套路に落とし込むように取り組んだ。意味のない型ではなく“武術動作”を正確に行うことで演技レベルの向上に繋げていけると考える。南拳:まだ経験が浅い選手の技術力を上げるために、南拳の基礎と歩型歩法の訓練をメインに反復練習を行った。力点や意識する点を明確に理解した上で、その動作が套路の中でどの様に構成され、組み込まれているのかを意識し、表現に繋げるための組み合わせ練習を多く行った。ジャンプに対しては跳び方の理解と回転数を上げるために回転軸をとることや、足を叩くポイントやスピードについて説明し時間をかけて丁寧に練習をした。

合宿中盤では、各自の套路に関する理解度を図るために、それぞれの動作名称チェックを行い、漠然と行っていた動作の意味や名称を把握することができた。今自分自身が行っている動作は何を表わしているのか、正しく理解して正確に行うことで南拳の特徴が表現される。独特の風格を身に付けて、演技レベルの向上に向かう方向性が明確になった。

【課題】

太極拳:自選難度競技の太極拳は「太極拳」の動作だけを取り入れている訳ではなく、伝統武術の動きを取り入れることも多く、純粋に「太極拳」の動きだけを練習しているだけでは表現し切れない部分がある。剣の技法についても、従来の太極剣の基本だけではなく、長拳の剣のような大きくリズミカルな動きも取り入れるように考える必要があるのかもしれない。

自選難度競技の太極拳は、ゆっくりとした動きと激しい動きが混在し、その合い間に跳躍も行うというかなり変則的な動きである。そのような太極拳に必要な持久力、瞬発力、心肺機能などを養う効果的な方策を模索しながら、訓練を続けて行きたい。

長拳:ウォーミングアップで全身を隈無く動かしたことにより、自身の弱点に気づくことができた。それを動作に生かせるように反復して動作の成熟に努めたい。表現力は小さな積み重ねで上がっていくものと考える。見栄えのある技を繰り出すだけでなく、武術動作として成立していることを目的とし、なおかつ審判員など第三者を常に意識したアピールできる套路構成が必要になる。動作の難易度が上がるほど、根本的な柔軟性や基本功の精密さが浮き彫りになる。限られた時間の中でも、常に体作りをしていくことは頭に入れておきたい課題である。

南拳:理想の動作やジャンプを行うための基本になる身体作り、筋力トレーニング等、身体能力の向上が必要不可欠である。若手選手はどの動作に対しても熟練度が不足している。動作が持つ意味や力点、脱力点等を理解しながら回数多く、しかし丁寧に正確な反復練習を続ける必要がある。

追記:合宿最終日にアンチ・ドーピング/コンプライアンス講習を行い、基礎知識の説明や強化指定選手・日本代表選手として知っておかなければいけないルール等を説明した。追加項目としてSNSの使用に関する問題点や、強化指定選手・日本代表選手という「公」の立場における責務と自覚の再認識に向けた質疑応答を行った。また生活面等の行動や振る舞いも改めて注意を促し、個人の意識をトップアスリートに置き換えて常に自覚ができるよう体験談と共に話し合った。若手選手は自身の立場にまだまだ実感がないことかもしれないが、しっかり理解に努めて理解を進めていきたい。

以上

歩法における関節の緩みや勁力の伝え方などを丁寧に確認した

歩法における関節の緩みや勁力の伝え方などを丁寧に確認した

3月の選考会に向けて全種目の完成度を上げる

3月の選考会に向けて全種目の完成度を上げる

「公」の立場における責務と自覚の再認識を行った

「公」の立場における責務と自覚の再認識を行った

 

2022年度冬季シニア強化合宿 参加者名簿

東日本対象選手

氏名性別種目所属
1大野 莉玖長拳刀術棍術千葉県
2鎌田 慎ノ介長拳剣術槍術北海道
3小松  資長拳剣術槍術埼玉県
4松本 鷹仁長拳刀術棍術東京都
5三船  仁長拳刀術棍術福岡県
6池内 佳奈長拳剣術槍術埼玉県
7池内 理紗長拳刀術棍術埼玉県
8柏熊 結姫長拳剣術槍術東京都
9中村 里香長拳刀術棍術千葉県
10古川 萌華長拳剣術槍術岩手県
11荒谷 友碩太極拳太極剣千葉県
12蝦名 冬馬太極拳太極剣東京都
13香取 尚弥太極拳太極剣神奈川県
14西口 直輝太極拳太極剣大阪府
15村上  僚太極拳太極剣東京都
16磯野 水響太極拳太極剣千葉県
17齋藤 志保太極拳太極剣岩手県
18庄司 理瀬太極拳太極剣秋田県
19寺岡 瑠里太極拳太極剣北海道
20平田 優花太極拳太極剣埼玉県
推薦宮森 創大南拳南刀南棍北海道

西日本対象選手

氏名性別種目所属
1安良城 基睦長拳剣術槍術大阪府
2今井 真秀長拳刀術棍術大阪府
3高  龍大長拳剣術槍術大阪府
4別當  響長拳刀術棍術大阪府
5貴田 菜ノ花長拳剣術槍術大阪府
6王  駿亮太極拳太極剣兵庫県
7花野 宏美太極拳太極剣兵庫県
8井上 欽太南拳南刀南棍大阪府
9狩野 祥吾南拳南刀南棍愛知県
10松川 爽人南拳南刀南棍大阪府
推薦中田 琉月長拳刀術棍術大阪府

コーチ:孫建明、前東篤子、勝部典子、中田光紀、市来崎大佑